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【薬屋のひとりごと】まるで他人の日記帳を覗き見るような

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今回おすすめするお話はこちら。
日向夏先生著・『薬屋のひとりごと』。
今年2023年中のアニメ化も決定し、発表と同時にTwitterのトレンドを席巻した人気作品です。

小説家になろうに掲載されているあらすじは、2023年6月5日現在は以下の通り。

薬草を取りに出かけたら、後宮の女官狩りに遭いました。

花街で薬師をやっていた猫猫は、そんなわけで雅なる場所で下女などやっている。現状に不満を抱きつつも、奉公が明けるまでおとなしくしていようと思うのだが、彼女の好奇心と知識はそうはさせない。

ふとした事件を解決したことから帝の寵妃や宦官に目をつけられることになる。

早く市井に戻りたい、猫猫はきょうも洗濯籠を片手にため息をつくのだった。

旧蛇足編は、薬屋番外編のほうにおいてあります。

書籍化されました。
レイブックスさんにて全一巻、ヒーロー文庫さんで現在十三巻まででております。文庫版一巻はレイブックス版の一巻をもとに加筆修正しております。

ビッグガンガンさんとサンデーGXさんでそれぞれ、コミカライズ連載中です。

薬屋のひとりごと

『後宮ミステリ』といえば、おそらく今まっさきに念頭に浮かぶ作品ではないでしょうか?

薬屋のひとりごと

大絶賛を博したあの痛快ミステリーが待望の文庫化。中世の東洋を舞台に「毒味役」の少女が宮中で起こる難事件を次々に解決する。 大陸の中央に位置する、とある大国。その皇帝のおひざ元に一人の娘がいた。 名前は、猫猫(マオマオ)。 花街で薬師をやっていたが現在とある事情にて後宮で下働き中である。 そばかすだらけで、けして美人とはいえぬその娘は、分相応に何事もなく年季があけるのを待っていた。 まかり間違っても帝が自分を“御手付き"にしない自信があったからだ。 そんな中、帝の御子たちが皆短命であることを知る。今現在いる二人の御子もともに病で次第に弱っている話を聞いた猫猫は、興味本位でその原因を調べ始める。呪いなどあるわけないと言わんばかりに。 美形の宦官・壬氏(ジンシ)は、猫猫を帝の寵妃の毒見役にする。 人間には興味がないが、毒と薬の執着は異常、そんな花街育ちの薬師が巻き込まれる噂や事件。 きれいな薔薇にはとげがある、女の園は毒だらけ、噂と陰謀事欠かず。 壬氏からどんどん面倒事を押し付けられながらも、仕事をこなしていく猫猫。 稀代の毒好き娘が今日も後宮内を駆け回る。

淡々とした筆致が味わい深い

この作品には、この一文が光るんだ! というような劇的な文章はありません。
ただひたすら、日常が日記帳に綴られるように淡々と物語は進行します。

ですが、その淡々とした様がなぜか味わい深いというか、癖になるというか。

主人公・猫猫(まおまお)は、名は体を現すと言わんばかり、猫のように自由気ままに日々を過ごしています。
興味のある事柄については首を突っ込み、反対に興味のない事柄からはできる限り離れようとする。
そんな猫猫の性質を表すような筆致で、どこか色鮮やかに猫猫とその周囲の人々が描かれるのです。

大きく感情が揺れることのない猫猫。
だからこそ、大きく盛り上がることもないストーリー。

――なのですが、なぜかそこがいいんですよね。不思議。

偶然という名の故意の事故

『薬屋のひとりごと』は、小さな謎解きがふんだんに詰め込まれた後宮ミステリ小説です。

特に、小さな謎がより合わさって一つの大きな事件として現れる中祀の事件(商業小説2巻、なろう版にはない事件です)は、あなたの胸に特に大きなインパクトを残すはずです。

その中祀の事件も他の事件の一部でしかないのですが、何事も一回目の印象というのは強いですからね。
少なくともわたしは非常に「おおっ!」となりました。

「あれとそれとこれがこう繋がってこの結末に至るのか! やられた!」という感覚は、ミステリ好き? にはたまらないところ。
(謎解きではなく伏線が収束していく様が好きな場合、どんな言葉で表したらいいのでしょうか?)

恋と愛と粘着質からの逃避行が楽しい

猫猫には、いまだその感情がわからない。恋という感情があるとすれば、きっと猫猫を産んだ女の体内に置いてきたのだろう。

薬屋のひとりごと 2

恋や愛について達観している(というより、逃げている、という表現の方が正しいのかもしれませんが)猫猫。

生まれた場所は妓楼で、母親は愛した男との子を狙い通り身籠ったのに捨てられてしまう。
(実際はそうではないのですが、猫猫の母親にとってはそれが真実なので)
売り物として色恋を扱う場所で育てば恋や愛に対する感情は打算的なものとセットになるよなあ、とも思うのですが。
そのせいで猫猫が逃げる逃げる逃げる。こんな逃げ方あるのか、というくらいに綺麗に逃げる。

お相手であるヒーロー役の壬氏(じんし)様は、手を替え品を替え、猫猫との関係を前に進めようとするのに進まない。じれったい。
時に強引に。時に外堀を埋め。粘着質、という言葉がぴったりなくらい、脈がないように思える猫猫にアプローチを続ける壬氏様はすごい! と個人的には思ったり。笑

そんな猫猫と壬氏様の関係性の変化をそっと見守るモブになりたい作品です。

以下、ネタバレありの感想です。

ひとつめのおすすめポイントに書いた「淡々とした筆致が味わい深い」について、誤解を与えるといけないので断っておきます。

おそらく、この地の文の書き方が作者の個性の部分だと思います。
日向先生の小説は他にもいくつか読みましたが、少なくともわたしが読んだ作品ではどれも似たような文体でした。
視点者がどんな性格であっても、です。
なので実は、他の作品は合わなくて挫折しています。
(あと、ちょっと日本語に癖があるというか、時折ひっかかる言葉遣いをされている時もあります)

地の文に限らないのですが、本当に淡々と描写されるんです。そしてストーリーも淡々と進行する。盛り上がりに欠ける。
加えて、ラノベらしいざっくりとした状況や風景説明で、詳しく光景が描かれるわけでもない。
そのため、ちょっと物足りないというか、消化不良というか、もやっとした気持ちになることもあります。

にもかかわらずこの作品をお薦めするのは、その淡々とした筆致が基本的な視点者である猫猫の性格と一致して味わい深いから、です。
(逆を言えば『薬屋のひとりごと』であっても、他の視点者になると少し気になる時もあるのですが)

何より、後宮ミステリというジャンルを語るにあたり、避けては通れないお話だとも思うのです。

猫猫の視点で、猫猫が興味のあるものを楽しみ、危険だと思った事柄や人物から必死に逃げようとする様を感じるのが、わたしはとっても癖になるくらい好きなのです。

余談ですが。
猫猫があまりに華麗に逃げ続けるため、なろう版322話『十、夜の訪問』を初めて読んだ時、非常に驚きました。
大変失礼ながら、「壬氏の妄想落ちでは?」と思っていたのです。そうしたら実際は逃げるどころか、しっかりと猫猫は壬氏と向き合っていたので驚きました。両思いになっていたよ……!
とはいえ、最後に残念な展開になるのはまあ、この作品のお約束なのでしょうけれど。

本格ミステリを読むのには抵抗があるけど、気軽に読めるミステリを探してる、という方にはお薦めできる『後宮ミステリ』の金字塔的作品。
ぜひ一度、『薬屋のひとりごと』の淡々とした世界観に足を踏み入れてみてください。

薬屋のひとりごと

大絶賛を博したあの痛快ミステリーが待望の文庫化。中世の東洋を舞台に「毒味役」の少女が宮中で起こる難事件を次々に解決する。 大陸の中央に位置する、とある大国。その皇帝のおひざ元に一人の娘がいた。 名前は、猫猫(マオマオ)。 花街で薬師をやっていたが現在とある事情にて後宮で下働き中である。 そばかすだらけで、けして美人とはいえぬその娘は、分相応に何事もなく年季があけるのを待っていた。 まかり間違っても帝が自分を“御手付き"にしない自信があったからだ。 そんな中、帝の御子たちが皆短命であることを知る。今現在いる二人の御子もともに病で次第に弱っている話を聞いた猫猫は、興味本位でその原因を調べ始める。呪いなどあるわけないと言わんばかりに。 美形の宦官・壬氏(ジンシ)は、猫猫を帝の寵妃の毒見役にする。 人間には興味がないが、毒と薬の執着は異常、そんな花街育ちの薬師が巻き込まれる噂や事件。 きれいな薔薇にはとげがある、女の園は毒だらけ、噂と陰謀事欠かず。 壬氏からどんどん面倒事を押し付けられながらも、仕事をこなしていく猫猫。 稀代の毒好き娘が今日も後宮内を駆け回る。