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【女王の化粧師】私の主が真の意味で国の主となるために

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今回おすすめするお話はこちら。
千花鶏先生著作、『女王の化粧師』。
恋を呼ぶときめきレーベル・ビーズログ文庫で書籍化がなされています。
完結済みなので、安心して読み進めてください。

小説家になろうに掲載されているあらすじは、2023年1月8日現在は以下の通り。

ダイは若年ながら花街で腕利きの化粧師。ある日、女王候補の遣いと称する男から、彼女専属にならないかと引き抜きを受ける。諸事情あって引き受けたものの、ダイの新しい主人は癇癪もちのわがまま娘。五人いる女王候補の中で、最も玉座に遠いと侮られている上、女王になりたくないと大騒ぎ。ダイを引き抜いた男も、なにやら一筋縄ではいかない質のようで――困難続きの女王選から、ダイは大陸のひとつの歴史の転換に巻き込まれていく。
このお話は、女王候補が史書に名を残す名君になって、主人公カップルが大恋愛の末に結婚するハッピーエンドです。
※人は死ぬときは死にます
※主人公カップルは男女です。

本家サイト(BARROCO)より転載(連載は本家が先行です)。
ビーズログ文庫様より電子版4巻まで発売中(序幕終了まで。ストーリーラインは同じですが、商業は読みやすいように書き換えています)
コミカライズはマンガUP様、Pixiv様にて連載中です(コミカライズの流れは商業版の方に準拠しています※一部異なる部分もあります)。

【ウェブ版】女王の化粧師

正直にいうと、『女王の化粧師』をなろう小説というくくりに入れていいのかは疑問があります。
というのも、本家サイトと呼ばれる『BARROCO』で連載されていたものの転載だからです。
連載は本家サイトが先行ですし、なろうには掲載されていない番外編や短編、同一世界線のお話も本家サイトにはたくさん公開されています。
また、すでに公開は終了していますが、カクヨムにも掲載されていた時期がありました。

なにより、いわゆるなろう小説と言われて想像する、チートものや異世界転生もの、ざまぁや成り上がり、といった要素がないのです。

そんな状態ですが、いちおうなろうでも公開されている、ということで。

女王の化粧師

五人の候補者が次期女王の座を競う小国デルリゲイリア。 ある日、花街の化粧師であるダイの下に、女王候補の遣いと称する男ヒースが現れる。 ダイの腕を見込んだ男は、専属の職人にとダイを誘うが、主となる娘は“最も玉座から遠い”と言われていて!? 「わたしにできることはただひとつ。あなたを、あなたが望むように美しくするだけ」 WEBで大反響! グランドロマン開幕!!

いかに嘘を吐かずに相手を騙すか

 これは王のために道を敷いた男と。 
 男を追うようにその道を歩いた女と。 
 彼女に王としての仮面を献じた、化粧師の話だ。

【書き下ろし】「女王の化粧師」紹介短編

端的に説明しようとした場合、おそらく上記が一番近いのだろうなと思いつつ。
わたしはよく、知人に『女王の化粧師』を勧める時にこう言います。

いかに嘘を吐かずに相手を騙すか、な、プロローグ。
それ以降は敵対する主人公カップルが段階を踏んで結婚する話。

そんな説明を元に読んだ知人は言います、「間違ってはいないけど……」と。
「ではどうおすすめしたらいいのか」と重ねて問うと、「難しい」と返ってくるのです。

そのくらい、叙述トリックがしこまれているのが序幕、プロローグ部分です。

「私の主が、真の意味で、国の主と、なるために」

第一章 娼婦の顔師 4

例えば、きっとなんとも思わず読み進めるだろう上記のセリフ。
あえてわたしがこの記事タイトルに使うくらいには非常に需要なセリフなのですが、初読時、このセリフの重みにまったく気づきませんでした……。
いや、もう、本当重い。辛い。幸せになって……。
(物語完結時にはちゃんと? 幸せになったけど)

作者による盛大なネタバレに救われる

とまあ、そんな感じで、幸せになって欲しくてたまらないけど、幸せになる道筋がまっっっっったくみえないのが、『女王の化粧師』の主人公カップルです。

序幕以降は驚くくらい、常にドンパチしてます。
恋人の首を主君に捧げてみせると宣言したり、実際に殺そうとしたり。
でも、政治的な思惑さえなければ、お互いにお互いを甘やかしたいし相手に甘える生活をしたい。
そんな主人公カップル――ふたりが愛しくて愛しくて。そして、苦しくて。

もともと涙腺が弱いのですが、それでも何周しようと鼻水垂らしながらずぴずぴ泣いてしまう作品は、そうそうありません。
お塩だらけで甘さの感じられないお砂糖での殴り合いです。辛い。

そして何より、登場人物の誰もが必死に生きていて、脇役のいないお話です。
世界も国も混乱しているので、みんないろいろ苦しい過去を背負っていて。
容赦なく人が死にます。ネームドキャラクターも亡くなります。救われることもあれば、救われないこともある。

主人公カップル以外も、さまざまな過去を背負っています。

そんな中での、作者である千花鶏先生のハッピーエンド宣言。

この話は「(覇権を取っていた国が滅びたせいでひっくり返った大陸を舞台に)主人公カップルが(敵対してどんぱちしながら)大恋愛の末に結婚し、女王候補が(側近の大恋愛と大陸の大混乱を、ひーひー言いつつ切り抜けて)史書にも名を残す名君となるハッピーエンド」です。

千 花鶏. 女王の化粧師 4 (Japanese Edition) (pp.255-256). Kindle 版.

これがもう、驚くくらいに信じられないんですよね。
上記箇所以外でもたくさん、それはもうたくさんおっしゃっているのですけど、信じられない。
参考:作者Twitterでの「ハッピーエンド」の検索結果

事実わたしは、本編完結の4話前になるまで、どう収集をつけるのか想像ができませんでした。
でも力技ではなく納得の展開でハッピーエンドに至ったので、また喜びに泣きましたよね……。

既読者の多くは「ハッピーエンドタグだけが安心材料」だと言います。
その言葉を信じて最後まで読み進めてください。主人公カップルは結婚します。結婚式もします。

色鮮やかに浮かび上がる情景

ここまで語ってきたように、ストーリーが素晴らしいのはもちろんなのですが、筆致がまたすごいのです。

まるで目の前に広がるかのような躍動感ある場面だったり、化粧で心弾む様だったり、情事を予感させるような艶めいた描写だったり……。
あ、情事を予感させるとはいえ、ただヒーローがヒロインの名前を呼んだり、抱き合って口付けを交わすだけです。R指定ものではありません。ご安心を。

個人的に好きなのは下記の三箇所。

「知らなかった。私、青も似合うのね」

 感心したような、陶然とした響き。
 ダイは芸妓に微笑んだ。
 彼女は美しい切れ長の眼をしていて、青はその涼しげな目元の魅力を、最大限に引き出す色だった。ただ彼女の肌の色はやや黄味が強く、青でも種類を選ばなければ派手に見えてしまう。その上、蝋燭の明かりの中では、青はくすむ色だ。招力石の明かりを灯す舞台化粧としてならともかく、小部屋で待機する芸妓たちの顔には、あまり施さぬ色である。
 その青が今回ばかりは目周りの違和感をきれいに消してくれていた。
 この娘が客を“溺れさせる”、時間稼ぎぐらいできるだろう。
 寝台の上の娘に汚された娼婦の気配はない。
 微笑む彼女はあたかも聖女のように美しかった。
 ダイは化粧箱の蓋を閉めて、この娼館の女主人に問いかけた。

第一章 娼婦の顔師 3

 紅に金をとろりと溶かし込んだ光が、水平線から世界のすべてを染めている。

 互いの温度を感じながら、どちらともなく呟く。

「……きれいですね」

「えぇ。本当に……」

 ――美しいものを見た。

 指折り数えられてしまうほど短いこの日々、わたしたちは共に、うつくしいものを見た。

 海辺の町を出て、平野を駆ける。その先でもわたしたちは見た。

 風に波打つ草も木も、果てない蒼穹も、翼で伸びやかに空を切る鳥も。

 驟雨に降られ、木陰で休みながら眺めた雨粒も、白く煙る水滴にはじける土の泥も。小動物が獣の遺骸を食む様も、立ち寄る村や町の人々の雑多な営みも。

 すべて、狂おしく愛おしく、そして美しい。

 わたしたちが命を賭けるものは、過去への呪い、不遇への克己心、そういったものばかりではない。お前は何も成さなかったと、嘲笑われることになろうとも、この美しいものを未来へ紡ぐ尊い営みの一部であると。

 わたしたちは。

第九章 泡沫の恋人 3

 主神たちの像の前、宰相に背後から押さえつけられながら、それでも手を振り上げた女王の掛け声が高く響く。
 人々は固唾を呑んで場を見守り、そして。
 笑いが、庭園に弾ける。
 撒かれた祝福の花びらが、風に吹かれて天高く舞った。

功罪の等分 3

ここ以外にももっと好きな場面あるのですが、いろいろとネタバレが酷かったので、ぜひみなさまの目で読んで確かめてください。
心に強く訴えかけられる場面がたくさんあるはずです。

以下、ネタバレありの感想です。

ディアナさんが可愛くて、ヒースをこねくり回したくて、マリア様に踏まれたい。

一言で感想をいうなら、上記です。

マリアージュ様に関しては、あえて触れまい。
当初に比べて非常に成長したなあと思うし、父君の期待を斜め上に超えた感じ。
でも、そのおかげでたくさんの人が救われたと思う。マリア様ありがとう。

そして主人公カップル!
本当にもう、苦しすぎるでしょう……!!!

わたし、この二人に何度泣かされたのでしょうか。
第三幕なんてずっとずぴずぴ泣いてましたよ。ティッシュ一枚では到底足りないですよ。タオルハンカチ必須ですよ。
幸せな場面のはずなのに、辛いのです。なんなのあれ。どうしてああなるの。

要素だけを抜き出すなら、キスして、同棲して、同衾して、プロポーズして、婚前旅行をして、というカップルのよくあるイベントをこなしているだけです。
そんな甘い場面のはずなのに。おかしい。苦しい。

完結前から千先生はずっと、二人は結婚するとか、四人の子供に恵まれるとか、完結後のあれこれについて公言してらっしゃいました。
でも信じられなかった。
完結した今ではそうなると知っていますが、その場面に戻ると……ダメですね。辛い。

甘いお砂糖の恋愛を求めている方には合わないと思います。
作者曰く、「権謀術数ファンタジー恋愛もあるよ」なお話なので。

でも、逆を返せば恋愛主軸ではなく、世界観のがっちりした骨太なファンタジーを読みたい方には胸を張っておすすめできる作品です。

最後に、作者の手による『女王の化粧師』の番外編まとめnoteを掲載して。
https://note.com/lost_atrium/n/n7c328d7113fa

今回はここで筆を置きます。

女王の化粧師

五人の候補者が次期女王の座を競う小国デルリゲイリア。 ある日、花街の化粧師であるダイの下に、女王候補の遣いと称する男ヒースが現れる。 ダイの腕を見込んだ男は、専属の職人にとダイを誘うが、主となる娘は“最も玉座から遠い”と言われていて!? 「わたしにできることはただひとつ。あなたを、あなたが望むように美しくするだけ」 WEBで大反響! グランドロマン開幕!!